【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第399回
「春はあけぼの」
J2開幕節、京都vs新潟。
早春の京都はキーンと冷え込むイメージだが、案に相違して4月の陽気だった。仁和寺の御室桜はまだだが、北野天満宮の梅は見頃を迎えている。文字通り、花の開幕戦だ。もちろん西京極には大挙1500人のアルビサポが乗り込んでいる。新潟から関東から、もちろん関西から。僕が市営地下鉄四条駅のホームで会ったサポは名古屋からだと言っていた。皆、待ちに待った開幕戦だ。
名古屋在住のサポと話し込んだのは「新井くん、スタメンだよ!」という話題だった。CB新井直人。高知キャンプに練習生として参加し、2月上旬、晴れて契約にこぎつけた新潟経営大卒のMF・DFだ。スタメン抜擢の噂はあったが、メンバー表に名前を見るとあらためて驚く。ものすごい変化じゃないか。2月1日の時点ではまだ身分の確定してない練習生だ。つまり、不採用ならどこか就職口を探さなきゃならなかった。それが2月24日にはJリーグの開幕戦スタメンなのだ。大卒ルーキーの開幕スタメンは2016年の早川史哉以来だろうか。
CBは広瀬、パウロンが戦列離脱してどう組まれるのか注目だった。キャリアなら大武、柳だが、片渕浩一郎監督は(大武の相方に)身長173センチの新井を使った。これは新人抜擢の「シンデレラストーリー」でもあるが、もう一つはフチさんの「2019年アルビ施政方針演説」でもあるだろう。
僕は例によってキャンプを見ていないので、大方のサポと同様、開幕戦のファーストインプレッションからイメージをつくり始める。スタメン表を見ての感想は、「思ったより去年ベースのスタメンだなぁ」だった。トップにレオナルドが入り、CBに新井が入ったことを除けば去年のフチさんのチームだ。「ブラジル人6人体制」をはじめ、新チームは各ポジション多士済々に思えるけれど、フチさんは「継続性」を土台に据えたのだと思う。
思えば「継続性」こそ、監督さんがシーズン頭から指揮を執って初めてチームにもたらすことのできる要素だ。たぶんこの土台に少しずつバリエーションが加わっていくイメージなのだろう。大変理にかなっているし、見る側からすればこの先のチームの変化が楽しみである。
で、(そのなかの例外ともいえる)レオナルドと新井なのだが、この2人がとても面白かった。去年のJ3得点王、レオナルドは堅実にポストプレーをこなしていた。ボールが収まる。チームにどーんと柱が立った印象だ。レオナルドがどーんといることで、田中達也や渡邉新太の「衛星タイプ」の仕事も際立つ。また新井には心底びっくりした。素晴らしくなかったですか? プレーが落ち着いている。で、とにかくフィードが抜群! フチさんの「2019年アルビ施政方針演説」は「DFが攻撃の起点」ですよ、というところじゃなかったか。レオナルドと新井、2人の新加入選手のおかげでボールの動かし方も、ピッチ(タテヨコ)の生かし方も可能性がひろがったと思う。
だから「思ったより去年ベース」のチームは上積みが見られたのだ。僕はポジティブな印象を持つ。川口尚紀と渡邊泰基が自信を持ってやれていた。試合の展開を言うと、キックオフから15分くらいの時間帯はアルビのやりたい放題だった。僕は「おお、スキルあるな~」としびれた。欲を言えばこの圧倒していた時間帯に得点したかったのだ。次第に京都がアルビの攻めに慣れていく。そして戦況が膠着(こうちゃく)し始める。
中田一三・新監督の京都は最終ラインからボールをつなぐポゼッション志向のサッカーに変貌していた。先方も大卒ルーキー3人をスタメン起用、つまり新メンバーで新しいサッカーをつくり上げようとしてる過程だ。つないでる途中でパスミス、トラップミスが頻発し、狙いどころは十分あったと思う。
「工事中」の京都に勝ち切れなかったのは反省材料だ。勝つチャンスはあった(最後、貴章が決めていれば…)。もっとも、中盤を突破されて大ピンチもつくった。まぁ、サッカーだからピンチもあって当然だが、このゼロ封をどう評価すべきかはちょっとまだわからない。次節以降、相手が変わるなかでどう「いい守りからいいサッカー」を表現できるか見ていきたい。
スコアレスドローで勝ち点1ゲット。開幕のおみくじは「末吉」といったところか。これから末広がりに良くなっていく期待を込めて「小吉」「中吉」でなく、「末吉」としたい。
西京極の新潟応援席もポジティブな反応だった。試合前、挨拶に向かった選手らを「アイシテルニイガタ」で出迎えたのも良かった。試合後は激励のコールがずっと続いた。そりゃみんな勝ち点3が欲しかったけれど、目先の結果よりとにかく今はチームを前へ進めることだ。
個人的にはホッとしたことがある。今季のチームスローガン「走れ!ニイガタ流儀」に関することだ。すごく強いメッセージで、おそらく県内の潜在的なアルビ支持層に訴求力を持つと思う。野澤洋輔、チョ・ヨンチョルの復帰もあって、特に「かつて熱心に観戦していたが今は足が遠のいている層」(休眠サポ層?)には刺さるのじゃないか。だから、そこに異論はない。
が、心配だったのは、そのスローガンがフチさんを縛りはしないかと思ったのだ。是永大輔社長をはじめ、クラブ関係者のコメントを拾うと、それが「新潟の人の好むサッカー」「新潟の人にウケるスタイル」と、何となくマーケティング的な物言いなのだ。解釈如何によっては(観客の好みで)サッカースタイルまで規定されかねないものがある。「前からプレスかけてボールを奪って、ショートカウンターをガンガン仕掛ける」が好まれたとして、そればっかりやってたら簡単に対策されてしまう。僕はなるべく現場を自由にしたいと思う。
ファイティングスピリットの表現として「最後まで走り切れ」はオッケーだ。フィジカルを上げて、チームの戦闘能力を向上させるのも賛成。ただサッカースタイルまで規定されると窮屈(きゅうくつ)じゃないかと思うのだ。サッカーには相手があり、試合には色んな局面がある。ドラクエだって「ガンガン行こうぜ」だけじゃないでしょ。「いのちだいじに」ってときもある。ホッとしたというのは開幕節の現場も、それから応援席もそこはしっかり織り込んでる感じに見えたのだ。
附記1、開幕あけましておめでとうございます。今シーズンもよろしくお願いします。さすがアルビサポ! 西京極の待機列はすごかったですね。サブグラウンドをぐるっと囲む形で延々伸びてました。
2、貴章は選手紹介のときも、交代出場のときも京都サポのブーイングを浴びてましたね。変な話だけど、何かちょっと懐かしい気持ちになりました。
3、この日は試合後、出待ちしてるサポの後ろで選手を見てたんですよ。加藤大の表情が変わりました。キャプテンの自覚でしょう。明るくなった。すごくポジティブなことだと思いました。あと笑ったのは新井直人のお母さんと妹さんが出待ちのサポに混じってらして、「直人がサインしてる! なんか変!」と声を上げておられたんですよ。いや~、これ、デビュー戦のリアリティだなぁとしみじみしました。で、その後、他の選手がファンサに来る度、近くの女子サポから「新井くんのお母さんです」と紹介されちゃって、「あ、そうなんですか!」「直人がお世話になってます」みたいなやりとりになってました。すんごい新井くん応援したくなりましたよ!