【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第525回
「悪天候」
J1第28節、新潟×町田。
この日はTBSラジオ、崎山敏也記者に教えられた『消えた角海浜 廃村五十年 その栄華と終焉』展(巻郷土資料館)の最終日を見てからスワン入りだったんですよ。崎山さんは原発候補地として名前が上がり、やがて立ち消え、廃村になっていく経緯に関心を向けていたけど、僕はかつてそこにあった暮らし、人々の成り立ちの方に惹かれました。特に「越後毒消し」ですね。漢方に対して和方という医療体系があって、まぁ、和方薬ですね、村で家伝の「毒消丸」がつくられた。それを明治以降、女性の移動制限がなくなって(行商に出られるようになって)、近郷近在の女性が「毒消娘」として関東甲信、東北一円に売ってまわるんですよ。これは日本の近代女性のワークスタイルに「1年の大半、家を空けて働きに出る」が登場した最初だと思われます。
で、「そんなフットワークいい先例あるなら女子サポだって遠征行っちゃうよなぁ」と、思いながら巻駅へ向かってたら、いきなり叩きつけるような雨が降ってきた。ゲリラ豪雨です。傘が間に合わず、あっという間にずぶ濡れになった。うわ、これ下手したら越後線止まるなぁと心配したけど、多少遅延しただけでどうにか新潟駅までたどり着きました。越後線でラッキーだったんです。信越線は運転見合わせでした。
ビッグスワンでは雷雨のため開門を早めて、サポーターをスタジアム内に入れたんですね。今年は(特に関東圏で)雷雨が頻発していて、前日(24日、土曜日)も埼スタの浦和×川崎戦、長野Uの長野×大宮戦が中止(試合中扱い)になっています。特に篠ノ井線が止まった長野Uスタジアムからの退避が大変だったようですね。地元バス会社とマイカーの長野サポが手分けして大宮サポを長野駅まで運び続けた。
僕は以前、大宮アルディージャの運営セクションに密着取材したことがあるんですが、夏場の試合開催で何より怖れているのは雷だそうでした。雨ならキックオフ時刻を遅らせるなど対応の幅があるけど、雷が避けられないと判断したら中止も考慮せざるを得ない。人命第一です。雷は北関東(群馬、栃木)が有名だけど、埼玉も多いんです。だから気象レーダーの動きにはピリピリしているとのこと。雷対応のマニュアルも見せていただきました。一般的にも「雷が鳴ったら建物に逃げ込む」と言いますね。スワン開門を早めたアルビ運営の判断はファインプレーだったと思います。
アルビ運営&広報はもうひとつファインプレーをしています。気象レーダーで雨雲の動きを掴み、「定刻通り、試合やります」と早めにアナウンスしたことですね。みんなどうなるかなぁと不安に思ってたけど、ホッとして試合に気持ちが向けられた。ビッグスワンは屋根から落ちる雨水が滝のようだったけど、次第に落ち着いてきたところ、「フツーの雨降りの試合」に収まりそうでした(キックオフ後は小雨程度)。いちばん強力な雨雲(レーダーで赤とか紫のやつ)は中越を通っていて、下越は薄かったんですね。無事試合ができてラッキーでした。
僕はスワンの水はけに感心しましたよ。試合前練習の様子を見ても、特に水たまりができてない。試合が始まって両軍、足を滑らせ転ぶ選手は出たけれど、それはスパイクのポイントの問題です。スペースに出したボールが止まるようなことは一度もなかった。ていうか、ハーフタイムには水撒いてましたからね。こんな日も撒くくらいピッチコンディションを信頼してるんだなと思いました。
試合。これはルヴァン杯準々決勝の2試合を含めた「つづきもの」の様相です。29節名古屋戦をはさみ、短期間に町田と3試合組まれている。記者たちは試合後の監督会見で「ルヴァンで当たることをにらんで、手の内を隠した部分はありますか? あればそれはどんな要素ですか?」と両監督に聞きたかったはずです。ま、100パー否定されますよね。リーグ戦をないがしろにするわけないし、万に一つあったとしても教えてくれるわけない。
スタメンの注目ポイントは秋山裕紀が外れたことでした。ベンチ入りもしていない。会見でも質問が飛びました。秋山が外れた理由は何か? 彼が外れたことで攻撃のアイデアを欠いたのか? 松橋力蔵監督の答えは「家庭の事情」、そして「彼がいなくても十分やれる選手がメンバー入りしました」。僕の耳に入ってる情報では、今回の「メンバー外」はまったくネガティブな話(移籍、ケガetc)ではなさそうです。いずれクラブから正式に広報されるでしょう。したがって松橋監督が手の内(ボランチ秋山のアイデア)を隠したということじゃないんです。ないんだけど、そこら辺は憶測を生むところだったかもしれませんね。
手の内という話でいうと、この試合、僕は感じ入ったことがあります。率直に言いますよ。アルビの選手が上手い。雨の日の試合って選手の技術がはっきりわかるじゃないですか。両チームの技術レベルが丸わかりでした。特に前半、町田のプレスをかわして美しいリズムでボールを回しているとき、スペースをつくり出しながら攻めかかるとき、ちょっと陶然としませんでしたか? 悪いけど町田はイエロー覚悟で止めるしかない。開始早々、藤原奏哉が酷いファウルを食らったけど、あれなんかまさにそうでした。
僕は今シーズン、J1で旋風を巻き起こした町田の「手の内」がつかめた気がします。戦術的にはもう既にロングボールとかロングスローとか、プレッシングやハードタックルとか言われ尽くされてるけれど、個々の技術としてはあんな感じなんです。よく風間八宏さんが言う「止める」「(自分が自在に扱える)いい位置に置く」が甘い。雨が降ったらアルビが好きにできる。ボールが取れるし、取られない。
戦評としては「両軍、決め手を欠くスコアレスドロー」「前半は新潟、終盤は町田」みたいなまとめ方になると思うけど、感触は違うなぁ。手応えあり。もしかするとお得意さんになりそうな気がします。いやホント、アルビはサッカーが上手い。もう、「レべチ」だと思うんです。そこですね、この試合のポイントは。
附記1、本稿執筆現在の8/29、13時の時点で翌30日の東海道新幹線、三島-名古屋間の計画運休が発表になってます。名古屋戦の31日はもっと台風が接近するわけで、交通機関の影響は避けられませんね。試合開催の可否も含め、情報を注視したいと思います。
2、当日、記者席で元監督、吉永一明氏とお会いしました。ぜんぜんお変わりなかった!
3、28日、アルビの早川史哉、太田修介、アルビレディース有吉佐織、石淵萌実、富岡千宙の各選手が「ドナルド・マクドナルド・ハウスにいがた」を訪れ、小児患者とそのご家族とふれあう機会を持ちました。フミヤは以前から積極的に支援や激励に動いていて、ハウスの掃除まで手掛けているそうです。また太田君から今回、「試合の翌日などに病院に行けたらいい。クラブと話をしてみたい」と申し出があり、ボランティアさんは「涙が出るほど嬉しかった」とのことです。こういうのはアルビレックス新潟のバリューを高めることですね。